がま口の歴史

がま口の歴史

ヨーロッパ社交界に生まれ、旅行文化や紙幣流通により発展した「がま口財布」

留め具のついた金属性フレーム(口金)を開口部とした財布やバッグのことを日本では「がま口」と呼んでいます。日本では明治期にこのタイプの財布やバッグが製造された際「がま口」という名前がつけられました。ガマガエルの口とフォルムが似ていることがその理由ですが、カエルが金運の象徴とされていたこともその背景にはあります。この印象に残る日本的なイメージのネーミングのため、「がま口」を日本由来と思い込んでいる方々も多いのですが、実は「がま口」はヨーロッパで生まれたものです。 「がま口」は、16〜18世紀のヨーロッパ社交界で生まれたものです。現在もヨーロッパやアメリカでは「frame purse」「kiss lock」などと呼ばれファッションアイテムとして親しまれています。

16〜18世紀のヨーロッパ:がま口の発明

16世紀頃、女性は腰に金属製バックル(留め具)をつけ、そこから下げたチェーンに「はさみや鍵、裁縫道具など生活用具」を下げることが習わしでした。社交界においてはこの金属製留め具に美しい装飾を施すようになります。

17世紀以降、さまざまに装飾された布製巾着袋にこれら生活用具を入れ携帯するようになります。シルク製の袋に繊細な刺繍が施されたものや金属製ビーズが細かくあしらわれたものが登場します。小さなものでは今の長財布のような四角形のフォルムのものもあります。

布製の袋に馬蹄形の口金をつけたものも登場しますが、これが「がま口」の始まりです。

立体的な巾着袋に口金をつけることで平面的になり、携帯性が向上したようです。当時量産化され普及していった「紙」「印刷物」の携帯にも都合がよかったと考えられます。さらに紙幣の流通にともない、それを入れるためのケースとして「がま口財布」も登場します。

腰に金属製バックルをつけ、下げたチェーンに生活用具を下げていた。
布製の袋に馬蹄形の口金をつけた「がま口バッグ」の初期のデザイン。
四角い布製の袋に口金をつけたがま口財布の初期のデザイン。口金は宝石などで装飾されている。

19世紀のヨーロッパ:革製ハンドバッグ・財布の登場

鉄道が普及し「旅行」が社交界では日常化されていきました。それまでの布製から、より丈夫でしっかりした革素材が持ちいられるようになり、巾着袋からバッグや財布へと呼称も変わるようになります。

今のハンドバッグの原型がこの時期生まれ、紙幣携帯に便利なアイテムとして「革製財布」も普及していきます。

日本におけるがま口の普及

明治時代初期、ヨーロッパを訪れた商人がフランスで流行していた「牛革に口金をあしらったバッグや財布」を日本に持ち帰ったことがきっかけで、日本においてもがま口財布やがま口バッグが製造されるようになり徐々に普及していきます。大正時代、洋装が広まりそれに合う「がま口ハンドバッグ」が流行します。しかし、この時代はがま口の口金には真鍮が使用されており、まだまだ庶民にとっては手の遠い高価なものでした。

その後時代を経て第2次世界大戦後、鉄を使った口金が作られるようになり製造コストが下がったことで、「がま口財布」は年齢を問わず広く普及していきます。特に婦人向けファッションアイテムとして、定番の一つになりました。

現在のがま口財布

現在では長財布や二つ折り財布が主流となり、「がま口財布」は昭和の時代と比べれば見られることは少なくなりました。しかし「広く開口部を開けることができ中身を確認しやすい」「素早く開け閉めできる」「閉じる時の音が小気味好い」「フレームや玉に独自の装飾性を持たせることができる」など、他の方式にはない特徴があるがま口は、ファッションの一つとして、財布だけでなく多くのさまざまなアイテムに用いられています。

参考文献

The History of Handbags
https://fiveminutehistory.com/the-history-of-handbags-a-5-minute-guide/

1920s Handbags, Purses, and Shopping Bag Styless
https://vintagedancer.com/1920s/1920s-handbags/